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第15回 現代の「あの世」

三十年以上も前に出版された絵本が近ごろベストセラーとなり、話題を集めているとのこと。さぞかし夢と希望に満ちた物語なのだろうと勝手に考えていたのですが、大きな誤解でした。その絵本を目にすれば、なんと地獄の業火で苦しむ亡者たちの阿鼻叫喚の光景が最初から最後まで埋め尽くしいるのです。
この絵本は江戸時代に描かれた地獄絵図をもとにしており、その名も『地獄』(風濤社刊)。聞けば購入者の多くは小さな子供のいる親御さんたちで、つまりは絵本を読み聞かせながら「悪さをすると、あの世でこういう目にあるよ」と説いて我が子を躾けたいということなのでしょう。実は、かく言う私も「あの世」の存在が怖かった子供の一人でした。そして、現世とは違う世界がどこかにあり、その世界にいる者たちが常に自分を見つめているという畏怖にも似た感覚は、一方では自らの行いを省みて正すことにも少しは(あくまで「少し」ですが)結びついたかもしれないと思っています。
考えてみれば、そのような感覚が芽生えるのは、意外と葬儀も契機になることが多いのではないでしょうか。葬儀は現代社会において他界の存在を思い起こさせる数少ない機会であり、時代を経てさまざまに様式はかわれども、死者を前にして行う厳粛な出来事であることに違いはありません。とは言え何事も手早く済ませることが是とされている昨今では、葬儀をあたかも日常のなかの厄介事のように受けとめている人がいるのも事実です。
ただ、このように生活のなかで徐々に死者や他界といった非日常の存在を感じる機会が消えていくことは、同時に来し方行く末に思いを馳せて自らの行状を振り返る機会の喪失であるとも思われてなりません。もしもそうだとすれば、禍々しい地獄絵図が絵本としてベストセラーになるのも、現代社会が「あの世」の存在をもう一度求めているかのような、そんな風潮のあらわれである気もするのです。